《LOVE》とインディアナの「LOVE」でない話:アートをおしきせ 20180526
By Hu Totya [Public domain], from Wikimedia Commons
アメリカのアーティスト、ロバート・インディアナ(Robert Indiana, 1928~2018)が5月19日に亡くなりました。
この名前にピンとこなくても、赤いアルファベットで「LOVE」と描かれた彫刻をご覧になった方は多いのではないでしょうか。
日本でも新宿アイランドタワーに設置されています。
この作品のシリーズはアメリカ国内の様々な都市、美術館だけではなく、世界中で展示されています。
メディアにもしばしば登場し、そのビジュアルは様々な商品デザインにも取り入れられてきました。
かくいう私も《LOVE》の形を模したマグネットが冷蔵庫のドアに…。
作品のイメージが様々なプロダクトに広く拡散、再生産された背景には、「著作権」の問題が関係しています。
2013年9月22日の「The New York Times」の記事「An Artist's LOVE-Hate Relationship」にこれに関する記述が。
"I am a father to a bad child," Mr. Indiana said. "It bit me."
(「私は悪い子どもの父親だ」、インディアナ氏は「私に噛みついたんだからな」と言った。)In particular, Mr. Indiana said, because "LOVE" - with its tilted O - wasn't properly copyrighted, it spread to all sorts of places and products he didn't want. And that broke his heart. "Rip-offs have done a great harm to my own reputation," he said.
(インディアナ氏は殊更、《LOVE》-Oの傾いた-は適切に著作権で保護されなかったので、彼が望まないあらゆる種類の場所やプロダクトに蔓延してしまったと言った。そしてそれは彼の心を傷つけた。「安易な模倣は私自身の評判を大いに損なってしまった」と彼は言った。)
著作権の保護を受けることが出来ず、作品がひとり歩きしてしまったこと、それに対するインディアナの複雑な思いが伝わってきます。
ちなみに2016年9月13日のLinked inにも、この件に関する記事「Interesting News About LOVE - A Cautionary Tale About Copyright on Robert Indiana's Birthday」がありました。
Unfortunately, Indiana didn't attach a copyright notice to the work when it was published, a requisite for copyright protection under the Copyright Act of 1909, the law in effect at the time. The result was that the work fell into the public domain, and was reproduced without the permission of or payment to the artist.
(運の悪いことに、インディアナは作品公開時、当時効力のあった1909年の著作権法の下、著作権保護の必要条件であった「著作権表示」を作品に添えていなかった。その結果作品はパブリック・ドメインとなり、アーティストの許可なく、対価を彼に支払うこともなく複製されることなってしまった。)"The great disappointment" according to Indiana "was that I didn’t know enough about copyright, and my work wasn’t properly copyrighted.
(インディアナによると「ひどく落胆するのは、私が著作権について十分知っておらず、作品が適切に著作権で保護されなかったことだ」とのこと。)
「著作権」はその対象となる事物が完成した時点で、自然に発生するものと思っていたのですが、当時のアメリカでは事情が異なるようです。
作品や作品イメージが広く用いられるのは、作品自体が魅力的であることの表れですが、本人が望まない形で行われていなかったのだとしたら残念です。アートに興味のない人にすら《モナ・リザ》並に馴染み深い作品となっているのに、皮肉。
ちなみに新宿アイランドにある《LOVE》は、現森美術館館長南條史生氏主導の「新宿アイランドアート計画」(1995年)の中で設置が実現した「コミッションワーク(委託制作)」。「コミッションワーク」では、依頼主のリクエストをふまえつつ、作品が設置される場所や環境を考慮して制作が行われるため、インディアナの思いを映した作品となっています。
新宿アイランド前という、最も目立つ場所にインディアナの作品が選ばれた理由として、朝日マリオン・コムのコラムに南條氏の次のコメントが掲載されています。
…「永遠に続く平和な世界」をテーマにしたという。その中心的な存在が「LOVE」だ。「新宿駅から歩いて来たとき、新宿アイランドのゲートに当たる位置には視認性が高く、誰からも愛される作品を置いた」と語る。…「現代美術は少数の観客しか想定しない作品もあるが、皆に愛されることも重要だと思う」
大野紗弥佳「LOVE ロバート・インディアナ作(東京都新宿区) 都会の中心で愛を発信」http://www.asahi-mullion.com/column/article/artrip/1788、2018年5月26日アクセス
経緯はともあれ、インディアナの《LOVE》は複製されても消費されることなく、人の心を掴む強さを持つ作品であることは間違いありません。
-
広島上空でピカッ、岡本太郎作品に原発事故付け足したチンポム 卯城竜太。人間の存在自体が自由なもの | 表現の不自由時代 04
2018 年 09 月 04 日 ARTLOGUE 編集部 -
なぜ女性器だけタブーなのか? 権力による規制に、アートの力で笑いながら疑問を投げかけるアーティスト ろくでなし子 | 表現の不自由時代 02
2018 年 08 月 20 日 ARTLOGUE 編集部 -
ルイ・ヴィトンや日清食品からの圧力のみならず、殺害予告、通報にも屈せず表現をつづけるアーティスト 岡本光博 | 表現の不自由時代 01
2018 年 07 月 23 日 ARTLOGUE 編集部 -
〈占い〉おとめ座の時期のポジティヴ・アート:占い師 ルーシー・グリーンの星占い的アート鑑賞のススメ
2018 年 08 月 30 日 ルーシーグリーン -
2018年 【東京】東京国立博物館周辺ランチ・グルメおすすめ7選!:腹が減ってはアートは見れぬ
2018 年 07 月 23 日 はこしろ -
声を大にして言いたい。「アートは育児を救う」。
2016 年 08 月 02 日 Seina Morisako -
世界最大級のアート・フェアなのに、超閉塞的なアート・バーゼルのお話
2018 年 06 月 26 日 黒木杏紀 -
モノが物語る力-ヤノベケンジ展「シネマタイズ」(高松市美術館)
2016 年 08 月 22 日 三木学 -
美術館4コマ漫画『ミュージアムの女』<br>「理想のタイプ」「出陣の合図」第1話~第10話<br>by 岐阜県美術館©︎宇佐江みつこ
2017 年 01 月 18 日 岐阜県美術館 -
芸術の都フランス・パリが日本一色に染まる! 大規模な日本文化・芸術の祭典「ジャポニスム2018:響きあう魂」がまもなく開催。
2018 年 07 月 09 日 黒木杏紀 -
人工生命体「ストランドビースト」の生みの親テオ・ヤンセン氏インタビュー
2017 年 07 月 31 日 羽田沙織 -
名和晃平 金色に輝く巨大彫刻「空位の玉座」がパリ・ルーブル美術館に出現!黄金の玉座空位の意味は? : ジャポニスム2018
2018 年 07 月 28 日 黒木杏紀 -
アートとビジネスの融合イベントが実現。ARTLOGUE Meetup スタート
2018 年 09 月 19 日 ARTLOGUE 編集部 -
アートが身近に感じられる、ちょっと内緒の話
2016 年 07 月 17 日 黒木杏紀 -
賛否両論「先進美術館」構想。美術館の役割とは。そして人口減少時代における生存戦略はいかに。:アートをおしきせ 20180520
2018 年 05 月 20 日 ARTLOGUE 編集部 -
無料で美術鑑賞!?案外あった美術館の無料開放日:アートをおしきせ 20180511
2018 年 05 月 11 日 ARTLOGUE 編集部 -
新たな時代のジャポニスム旋風が巻き起こる、フランス・パリで日本の美を再発見~大規模な祭典「ジャポニスム2018」展覧会リポート!
2018 年 08 月 10 日 黒木杏紀 -
「大大阪モダン建築」とアート&カルチャー
2016 年 07 月 14 日 三木学 -
アートとこころ ~1.こころをアートで表現する!絵を描くことを通じて見えてくるものとは~
2018 年 03 月 17 日 佐藤セイ -
アートとこころ ~2.こころをアートで映し出す!見えない絵を見るこころの動きとは?~
2018 年 03 月 23 日 佐藤セイ
あなたのデスクトップにアートのインスピレーションを
ARTS WALLは、常にアートからの知的な刺激を受けたい方や、最新のアートに接したい方に、ARTLOGUEのコラムや、美術館やギャラリーで今まさに開催中の展覧会から厳選したアート作品を毎日、壁紙として届けます。 壁紙は、アプリ経由で自動で更新。