美術館に行くまでもなし!天才たちの作品を堪能できる「ワインのラベル」

美術館に行くまでもなし!天才たちの作品を堪能できる「ワインのラベル」
「シャトー・ムートン・ロートシルト」の1982年のヴィンテージは、『マルタの鷹』などで知られる映画監督ジョン・ヒューストン(John Huston, 1906~1986)の作品。

 
 ヨーロッパの子供のおやつの定番「チュッパチャップス」。日本でもお馴染みですが、バールであろうがスーパーであろうが田舎の食料品店であろうが、チュッパチャップスを置いていない店を探すほうが難しいほど子供たちの生活に浸透しています。

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 しかし、スペインの会社が発祥のチュッパチャップスのロゴが、サルバドール・ダリ(Salvador Dalí, 1904~1989 )の手によるモノであることを知っている人は、それほど多くありません。

 美術館に赴くまでもなく、実は日常生活の中で超一流のアーティストの作品を眺めている可能性が大きいヨーロッパ。その最たるものが、ワインのラベルなのです。

 

ワインの顔としてのラベル

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 ワインにまったく明るくないという人にとって、ワインを購入するときの基準は「ラベル」のデザインのみ。ワインの名前を聞いてもワイナリーの名前を呼んでもピンと来なければ、自分の好みのラベルを選ぶしかありません。


 しかしこれが存外に愉しい作業なのです。10数センチ四方の小さな紙に描かれたデザインにワインのすべてが反映されるわけですから、古典的であったりモダンであったりする絵を見て中身の味わいや香りを想像するのはとても奥ゆかしいことではありませんか?


 ワインのラベルがすでに、ブランド力を誇示する商標となっている銘柄ももちろんたくさんあります。価値や値段が一目瞭然のこうしたワインのラベルにも魅力的なものが多く、それこそ近代の一流の芸術家にそのデザインを依頼して制作されたものも少なくありません。

 逆に、中小企業といっても良い規模のワイナリーが、若い芸術家たちの育成をも目的としてコンクールなどを行うこともあります。

 

中身だけではなくワインのラベルも超一流「シャトー・ムートン・ロートシルト」

 

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1973年のラベルを手がけたのはなんとピカソ!

 
 財閥ロスチャイルド家の一員であるフィリップ・ド・ロチルド男爵(Philippe de Rothschild, 1902~1988 ) がオーナーとなったことで一躍知名度を上げたフランスのワイナリー、「シャトー・ムートン・ロートシルト(Château Mouton Rothschild) 」。ロチルド男爵は後に、アメリカ大陸でも「オーパスワン(Opus one )」というワイナリーを立ち上げ、いずれも世界で最も高価なワインのひとつとして有名です。


 シャトー・ムートン・ロートシルトでは、1946年からラベルデザインを当代随一のアーティストに依頼するという豪快な戦略を貫いています。

 過去にシャトーのワインラベルをデザインしたのは、ジョルジュ・ブラック(Georges Braque, 1882 ~1963) 、フランシス・ベーコン(Francis Bacon, 1909 ~ 1992 )、パブロ・ピカソ (Pablo Picasso, 1881~1973 )、アントニ・タピエス(Antoni Tàpies, 1923~2012) 、ジョアン・ミロ(Joan Miró, 1893 ~1983)などなど、一人だけでも充分話題になりそうな天才ばかり。
ライバルともいえる「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティ(Domaine de la Romanée-Conti )」が、シンプルに銘柄だけを記したラベルを使用し続けるのとは対照的です。が、当代一のアーティストにラベルのデザインを依頼できるというブランド力を発揮できるのは、後にも先にも「シャトー・ムートン・ロートシルト」のみといわれています。

イタリアのワインのラベルもさまざま

 マーケティングでフランス程の露出はなくても、イタリアは世界最大のワイン生産国でありアートの国。フランスのような派手さはないものの、ふたつの要素が生み出す美しいラベルは、数多く存在します。

 すでに存在している伝統ある美術品を、ラベルに用いているワイナリーが多いのも特徴。ボッティチェッリやブリューゲル、ヴェラスケスなど、イタリア国内に所有されている作品をラベルにするワイナリーも目立ちます。また、スーパーマーケットに並ぶ日常の食卓用の安価なワインにも、この手のラベルが多いようです。

ワイン文化が国際的に浸透する時期と重なるラベルの誕生

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 1970年代、イタリアのワインのアイデンティティが国際社会の中で確立された頃から、そのラベルの重要性も注目されるようになりました。バローロやバルバレスコのワインで有名なワイナリー「ヴィエッティ(Vietti)」も、1970年代から映画監督のピエール・パオロ・パゾリーニ(Pier Paolo Pasolini, 1922~1975)や画家ジャンニ・ガッロ(Gianni Gallo, 1935~2011 )などとのコラボを始めています。プロジェクトが生まれたきっかけが、ヴィエッティ家の人々とこうした芸術家たちとが囲んだ食卓や暖炉の前の団らんにあったという温かいエピソードがあります。

 トスカーナワインが誇る「スーパータスカン(Supertuscan)」には、画家アルベルト・マンフレディ(Alberto Manfredi, 1930~2001 )の名前が登場します。1982年から、キャンティのワイナリー「モンテヴェルディーネ(Monteverdine)」が生産する「ペルゴレ・トルテ( Pergole Torte )」には、マンフレディが描く女性の姿がありました。

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 郷土愛の強いシチリアでは、シチリア産のワインのラベルにシチリア出身の女性がデザインをしています。ワイナリー「ドンナフガータ( Donnafugata )」は、シチリア出身の文豪ジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサ(Giuseppe Tomasi di Lampedusa,  ) の作品『山猫』(ルキノ・ヴィスコンティの映画作品でも知られています)のワンシーンからインスピレーションを得てその名が付けられたといいますから、シチリアへの深い思いが伝わるというもの。 オーナーの一人であるガブリエッラ・ラッロ ( Gabriella Rallo)がワインのラベルのために描く女性像や自然の風景には、シロウトとは思えない不思議な魅力があり、シチリアへの深い愛を見るものに感じさせてくれます。とくに、風に髪をなびかせた女性像は、ワイナリーの顔として有名になりました。ガブリエッラ・ガッロは、ワイン醸造におけるさまざまな活動が評価されて、2018年度「女性とワイン賞 (premio Donne & Vino 2018 )」を受賞しています。

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 最近では、チリ出身の芸術家ロベルト・マッタ(Roberto Matta, 1911~2002)の息子パブロ・チャウレン(Pablo Matta Echaurren, 1951~)が、ロマーニャ地方のワイナリー「ポデーレ・モリーニ(Podere Morini) 」のワインラベルを描いて話題になりました。


日本人も登場したイタリアワインのラベル

 トスカーナ出身の貴族によって設立されたワイナリー「オルネライア( Tenuta Dell Ornellaia )」は、これまでのワインラベルとは異なるデザイン戦略を用いています。

 2006年からはじまったこのプロジェクトには、「芸術家たちの収穫期 ( Venmmia d’artista)」という名前がついています。その年のワインをまず醸造専門家がテイスティングし、頭に浮かんだ言葉がラベルのテーマとなるのです。「カリスマ」「無限」「バランス」「エネルギー」といったシンプルな文字にあわせたさまざまなラベルの作成が、毎年高名なアーティストに依頼されます。ちなみに、2013年のヴィンテージには「エレガンス」という言葉が与えられました。このテーマでラベルを作成したのは、日本の彫刻家で画家でもある曽根裕さん(1965~)でした。

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曽根裕が手がけたラベル。「芸術家たちの収穫期」による収益の一部は、芸術の支援に寄付されています。

 

文化としてのワインの質を表現するラベル

 
 ワインの生産者がラベルにこだわるのは、そこにワインの質そのものを表現する力があるからに違いありません。
アーティストたちも、文化を語り合う場にはワインが相応しいと思うからこそのコラボレーションなのでしょう。
春の歓喜を、夏の情熱を、秋の豊穣を、冬の峻厳を凝縮させたワインとそのラベルは、小さいけれど奥の深い芸術なのです。

…ちなみにARTLOGUEでも宮城の酒蔵「新澤醸造店」とタッグを組み、毎年最高級の日本酒に、森村泰昌や名和晃平など、トップクラスのアーティストの作品をラベルに採用しています。これまでコラボレーションしたアーティストやラベルにご興味のある方はこちらをご覧ください。

 

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