蘇る身体の器官から思うこと-テクノロジーとアート、身体の「拡張」:アートをおしきせ 20180512
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レオナルド・ダ・ビンチ(Leonardo da Vinci, 1452~1519)による理想の人体像。
《ウィトルウィウス的人体図》1487頃、 紙にペンとインク、 34.4 cm × 25.5 cm、 ヴェネツィア、アカデミア美術館)[Public domain], via Wikimedia Commons
アメリカ陸軍で失った耳を腕で培養して再建、移植する手術が成功したと報じられていました。アメリカ陸軍の事例としては初とのことです。
参照:CNN.co.jp「腕で耳を培養、事故で左耳失った米兵に移植手術」https://www.cnn.co.jp/usa/35119000.html、2018年5月12日アクセス
移植した耳は、患者本人の肋骨から取り出した軟骨を耳の形に彫刻し、自らの腕の皮下で育成したものだそうです。
腕で育つ耳の画像がニュースに添えられていたのですが、耳の形のシルエットが皮膚に浮かび上がるその様子をみて思い出したのが、オーストラリア出身のアーティスト、ステラーク(Stelarc, 1946~)の「Ear on Arm」というプロジェクト。こちらは失った耳を再建するのではなく、第三の耳を腕に構築、最終的に耳にはインターネット接続が施され、耳が感知する音を、ネットを介して不特定多数と共有することを目指しています。ステラークと同じ場所にいなくても、彼と同じ音を体験できるというわけです。2010年には、アートとテクノロジーを巡る国際的なコンペティション、プリ・アルスエレクトロニカ(Prix Ars Electronica)で、ハイブリッドアート部門のゴールデンニカ(最優秀賞)を受賞しています。
最終的な目的は違うものの、本来の身体には起こり得なかったこと、備わっていなかったことがテクノロジーによって実現しており、身体の可能性が拡張されたという点では共通しているのかなと思いました。
失った機能、器官を補うにとどまらず、いずれSFさながら、本来ありえなかったレベルにまで身体のフォルムや能力、感覚が変わる「拡張」も日常的に行われるようになるかもしれません。実際、イギリス政府公認サイボーグとして知られるアーティスト、ニール・ハービソン(Neil Harbisson, 1984~)は色盲として誕生しましたが、光の波長を音に変換してくれるアンテナ状のデバイスを頭に埋め込むことで(もはやウェアラブル越え!)、色を「きく」という新たな知覚を得ています。なんと彼は、本来人間の視覚では感知できない赤外線、紫外線も体感できるのだそうです。
「拡張」のレベルはさておき、それが技術的に可能であるということは(健康上、倫理上、金銭上、様々に起こり得る問題を度外視すると)、するしないは選べるということでもあります。
現在、標準、理想とされている人体、能力、そして人とは何かという定義は、絶対的とはいえない。まだ選択を眼前に突きつけられたわけではないものの、人とは何か、自分はどうありたいかということも今一度自分に問う必要を感じます。
私は…いまだ乳歯が残っているので(つまり生えかわる永久歯がない)、永久歯が自製できるくらいには「拡張」したい…かな。
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