ミシュラングルメは美術館で ! 心も味覚も満足する美術館のレストラン ~シェフと美術館の相思相愛は南欧にとどまらず 世界編~

アテネの「アクロポリス博物館」にあるレストランは、なんとパルテノン神殿の眺望つき。
世界中の美術愛好家が美術鑑賞を目的に訪れるフランスとイタリア。
食文化でもライバル関係にあるこの2国にかぎらず、食事だけを目的に訪れても不思議ではないレベルのレストランが、世界の美術館で続々とオープンしています。
フランス編・イタリア編に続き、世界中のおいしい美術館もチェックしてみましょう。
「ネルア」ビルバオ・グッゲンハイム美術館
スペインのバスク地方にあるビルバオ・グッゲンハイム美術館。
フランク・ゲーリー(Frank Owen Gehry, 1929~) が設計し、現代建築の傑作中の傑作といわれるこの建物は、映画『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999)やマサラ・アクション『ボス その男シヴァージ』(2007)にも登場します。

建物自体がモダンアートの極致!「ビルバオ・グッゲンハイム美術館」
1997年に開館したグッゲンハイム美術館に併設するレストランを仕切るのは、ミシュランの星つきシェフ、ホセアン・アリハ(Josean Alija, 1978~) 。
スペイン料理界の若きスターを迎えたレストラン「ネルア(Nerua )」は、美術館同様にミニマルでシンプルな空間が特徴。この空間を舞台に、キヌアや野菜をふんだんに使用したモダンなアリハの食の芸術が繰り広げられます。
美術館の前を流れるネルビオン川の古代ローマ時代の名前「ネルア」が、レストラン名の由来となっています。斬新でまさに絵になる美術館に相応しい若きシェフの「芸(アート)」、ぜひ舌で味わいたいものです。
「ザ・モダーン」ニューヨーク近代美術館
「MoMA(モマ)」の愛称で親しまれるニューヨーク近代美術館内には、2016年にミシュランの二つ星を取得した「ザ・モダーン(The Modern)」があります。シェフは、新進気鋭のエイブラハム・ビッセル (Abram Bissell)。美しい庭を眺めながらゆっくりと食事ができる「ザ・モダーン」には、セレブリティたちの姿もちらほら。
シンプルでほどよい量の料理は、日本人にも非常に食べやすいといわれています。モダンアートの美術館としては世界で最も重要な一館である「MoMA(モマ)」で、食事も楽しみつつ一日を過ごせます。
「ファルマシア」リスボン・ファルマシア美術館
なぜか郷愁を誘う南欧の街リスボン。起伏の多い地形のため坂が多いことでも知られるこの歴史ある街には、数々の美術館や博物館があります。
その中の一つ「ファルマシア美術館(Museu da Farmácia)」は、その名の通り、薬学にフォーカスした美術館。そして薬品関係の展示品がズラリと並ぶ館内には、美術館と同名の「ファルマシア(Restaurante Pharmacia)」というレストランが。ヨーロッパ各国のリスボン旅行ガイドに、必ずおすすめとして登場する名店です。
「ファルマシア」のピンチョスは、美食家たちのあいだで評判になるほどの美味。ピンチョスは、リスボン版のタパスといったところ。
さらに、救急箱に入れられた調味料や生理食塩水かと見まごうような容器で登場する水など、楽しい演出も密かな人気となっています。デ・サンタ・カタリーナ展望台からの眺望を楽しみつつ、アペリティフなんていかがでしょうか。
ナスとチーズの揚げ物や香草の効いたおつまみなど、リスボンのお料理は細部に至るまで気が利いていることでは定評があります。チョコレートパイなどのスイーツもおいしく、ついつい食べ過ぎてしまうほど。薬学をテーマにした美術館で、食べ過ぎて病気にならないよう気をつけましょう。
「レストラン・アクロポリス」アテネ・アクロポリス博物館
ギリシアはアテネにあるアクロポリス博物館。館内併設の同名レストラン、ここには星つきのシェフも特別なメニューも存在しません。
にもかかわらず、世界中の食通から称賛が引きも切らないのは、言わずもがな、パルテノン神殿を一望できる「借景」というスパイスがあるから。
西洋文明の礎ともいえるパルテノン神殿を眺めながら、ギリシア風サラダやフェタチーズ、トラハナ(小麦粉やセモリナ粉に、牛乳、羊乳、山羊乳などを加えてつくるパスタの一種)のスープなどをアニスの香りただようリキュール「ウーゾ」とともに味わう…。食も含めたギリシア文化そのものを堪能できる、なんとも贅沢な場所です。
「ライクス」アムステルダム国立美術館
オランダのアムステルダムが誇る「アムステルダム国立美術館」。レンブラントの『夜警』や『牛乳を注ぐ女』を含むフェルメール作品、フランドル派を筆頭とする数々の名画を所有するこの美術館のコレクションは、ルーヴル美術館や大英博物館にも負けず劣らずなクオリティーです。
10年間(!)にも渡る全面改修を経て、2013年にグランド・オープンを迎えましたが、美術館と市民との間に起こった、改修を巡る騒動をまだご記憶の方もいらっしゃるかもしれません(その一部始終を捉えたドキュメンタリー映画『みんなのアムステルダム国立美術館』は必見です)。
改修期間中、美術館の主要コレクションなどを展示する会場として用いられていた「フィリップス棟」。本館オープン後はこちらも同じく改修され、2014年に再オープンを果たしています。そのリニューアルにあたって、「フィリップス棟」に新たに誕生したのがレストラン「ライクス(RIJKS)」。2017年にはミシュランの星を獲得しています。
30代半ばという若さのヨリス・バイデンダイク ( Joris Bijdendijk, 1984~) が2人の仲間とともに舵取りをする「ライクス」は、チーズやジャガイモ、海の幸など地元の食材を使った料理がメインです。シーズンごとに国内外のトップクラスのシェフを招き、伝統のオランダ料理に一ひねりを加えた、コンテンポラリーな一品一品で目も舌も楽しませてくれます。
最後に
日本で行われるさまざまな美術展と異なり、海外の美術館は質、量ともに(ときには美術館の建物自体)規模が壮大です。美しいものを見ているうちは気分も高揚しますが、実は疲労感も大変なことに。鑑賞中に吐き気やめまいに襲われる「スタンダール症候群」になるかたも少なくないはずです。
そんなときに、休憩も兼ねて味覚も美味で満たすことができるのはありがたいことです。すべての美術館に、こうした気の利いた素敵なレストランがあるわけではありませんが、名高いシェフたちが美術館という空間に注目している昨今の風潮、しばらくは続きそうです。
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