日常と表現について。元くるりのシンガーソングライター吉田省念に聞く

日常と表現について。元くるりのシンガーソングライター吉田省念に聞く

その美しい旋律と歌声で、「京都の至宝」と賞賛されるシンガーソングライター吉田省念さん。2017年発表のセカンドアルバム「桃源郷」では、日常の中で見つけた桃源郷がテーマになっています。イラストレーションや写真など、音楽以外の表現も行う自由なクリエイティブライフについてお話を伺いました。

京都の緑豊かな自然に囲まれて

https://www.youtube.com/watch?v=Qt3AgZu2gFQ

京都の深い山の森の中。突然視界に入る巨大なコンクリートの箱が、省念さんの生まれ育った実家。父親の現代美術アーティスト、ヨシダミノル氏(1935~2010)の設計によるコンクリートの打ちっぱなしの建築物です。

1階にはDIYでつくられた音楽スタジオがあり、在籍時のくるりの練習に使われたり、細野晴臣さんが訪れて古い音楽を話題に話に花が咲いたこともあるそう。今年2018年にはリフォームを施し、省念さんの生活の拠点もこちらに移したとのことです。

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――うぐいすの声がきれいですね。

吉田 やっぱり近くに緑や自然があるのは気分的に全然違いますね。東京で1人で電車に乗って通学してる子どもなんか見かけると、大人でも大変なのになあって感心しちゃいます。
ただ、ここ獣害も多いんですよ。野生の猪がゴミを漁ったり、カラスが玄関の前に置いてある水槽の金魚を連れ去ったりね(笑)。

――ずいぶん長生きする金魚だなって思ってたけど?

吉田 まさか!ある日ふと姿を消してるので、縁日の金魚すくいでその都度補充してます。

セカンド・アルバム「桃源郷」と写真について

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――「ポストフォーク」と銘打たれたアルバム「桃源郷」のカバーアートには、水中写真が使われています。

吉田 まだティーンエイジの若いアーティスト、ZEN YOSHIKAWAさんの写真です。ZENくんの写真は初めて見た瞬間にウワっ!と思って。作品としての自立力というか、エネルギーに惹かれました。紹介してくださった方とも長い時間の関係性があって、前作の『黄金の館』から自分の活動を見守ってくださっていて、タイミングがピタッと合った感じです。


省念さん自身の撮る写真も独特の感性。ライヴのツアーで訪れた地域の生活感を感じさせる風景や、うらびれた建物などが切り取られています。つげ義春さんが好きだという感覚がなんとなく納得できます。

省念さん自身の撮る写真も独特の感性。ライヴのツアーで訪れた地域の生活感を感じさせる風景や、うらびれた建物などが切り取られています。つげ義春さんが好きだという感覚がなんとなく納得できます。

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ライヴのフライヤーのイラストも自分で描く

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――拾得での定期ライヴ「黄金の館」も50回となりました。初回からフライヤーのイラストをご自分で描かれていますが、定規を使って描いているんですね。

吉田 4年くらい前から、定規を使って方眼紙に描くイラストを始めました。最終的にはPhotoshopで方眼の余計な線を飛ばしているんですが、これが意外と苦労しています。

――昔に比べてイラストの作風がだんだん抽象的になってきた印象があります。もしかして父親のミノルさんの影響がある?

吉田 あ〜、あるかもしれませんね。よくわからないけど、歳をとるにつれて近づいていってる部分があるのかも。

――モチーフに三角屋根の家がよく登場しますが、実家が平たいコンクリートの屋根だからとか?

吉田 小学校の頃は三角屋根の普通の家に憧れてました(笑)。玄関で靴を脱いで上がってリビングや2階があるようなアットホームな家庭ですね。中学に入って音楽をやりだしてからは、あんまり気にならなくなった。何でもいいやって感じになって。

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――前作「黄金の館」のカバーアートも、ほかのアーティストのイラストレーションを使っています。ご自身のイラストや写真をアルバムに使わないのはなぜでしょうか?

吉田 レコーディングも宅録だし、ミキシングも尾之内和之さんとの2人作業。アルバムのアートワークだけでも、その時に関係性のあるアーティストの作品を使って、世界観を広げたいっていう気持ちがあります。

このあいだフライヤーを見てくれていた方からお話をもらって、着物のパターンを描くっていう仕事を初めてやりました。地面を描くとそれが上にも来たりするんで結構悩みました。着物のカラーリングもよくわからなかったんで、初回はモノクロで渡して向こうで色を着けてもらうことにしました。

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音楽とアート、ファッションについて


――進路に美術系の大学を選んだのには、音楽を生業にする前には美術の道という選択も考えにあったんですか?

吉田 当時好きだった60年代のブリティッシュバンド、ビートルズもローリング・ストーンズもフーも、好きなミュージシャンはアートスクール出身だということに気づいたんです。美術の道とかって感じでもなくて、美術系の学校に行けば尖っているおもしろい人たちと音楽がやれるんじゃないかなって思ったんです。

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――省念さんの音楽の根っこにはビートルズの影響が強い気がしますが、どうやってビートルズを発見したんですか?

吉田 家にレコードがあったのもありますね。父も母もビートルズ好きでしたし。あとファッションかな?京都で古着が流行ってたんで、音楽もファッションから、カッコいい、ダサいって判断してました。だからハードロックとかカントリーロックなんかは当時はスルーしてました(笑)。

ビートルズやローリング・ストーンズも、初期のR&Bのカバーをやってる頃が好きなんです。後期のプロダクションの完成度の高いものは、正直あまり聴かないです。どこか隙間のあるラフな音のほうが普段聴く回数は多いかもしれません。
ぼくにとっては60年代初期から半ばまでのサウンドがいちばんカッコよくて、70年代のロックはあまり聴いてないんですよね。

――音楽とアートの関係ってどう思います?

吉田 どうなんだろ。美術館とかギャラリーで音楽が流れてたら邪魔な感じしますね。人の足音とかひそひそ声は気にならないけど。コンビニの音楽、お蕎麦屋さんで流れるジャズとかも苦手。でも、商店街から聞こえてくる歌謡演歌は好きです(笑)。


最後に


最近髪の毛を金髪に染めた省念さん。行きつけの美容師さんに任せた結果だそうです。個人的には髪は黄金じゃないほうがいいと思いました。

吉田省念さんは精力的にライヴツアーで各地を巡っているので、Facebookの告知をチェックして、お近くを訪れた際にはぜひ聴きに行ってみてください。

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