アート×猫 ~江戸時代の國芳の浮世絵作品に見るアートと猫の心いやされる関係~

巷では「猫ブーム」。テレビのコマーシャルや雑誌でも猫をモチーフにしたものが多くなっています。最近は「散歩の必要がなく飼うのが楽」ということで人気が急上昇しているようです。アートと猫との関係で言うと、昔から猫は絵画のモデル・主役や脇役として作品に描かれてきました。
猫って…
猫の好きな人なら猫の歩き方やしぐさなど、いくら見ていても飽きないのではないでしょうか。
初めて猫を飼った時、人のように言葉が通じる訳でもなく意思疎通に戸惑いましたが、日々一緒に暮らしていると、世間でよくいわれる「猫は薄情・冷たい」に当てはまらない、表情や表現力の豊かさに気付かされます。むしろ情に厚く、不思議と人間の心を察知し、シンプルに無邪気に人間と接してくれます。特に最近のように人間関係が複雑な世の中では、そのシンプルさがかえってありがたい気がします。
今日はその中でも猫好きの画家として有名な江戸時代の代表絵師である、歌川國芳(うたがわくによし)(1797~1861)の作品から心いやされる関係を考えてみましょう。
歌川國芳とはどういう絵師だったの?

歌川国芳《相馬の古内裏》1845~1846頃
まずは、歌川國芳とはどんな画家(絵師)だったのでしょうか。
生まれは江戸日本橋本銀町(ほんしろがねちょう)、生家は紺屋(こうや、染物屋)、「風景画の広重、役者絵・美人画の国貞」と並び称された武者絵および戯画が得意の絵師、何より驚くのは漫画のニャロメのような落書き風の絵から、洋風技法や写実描写も取り入れた洋風風景画まで非常に幅の広い創作活動をした絵師でした。
発想が豊かで次々に新機軸を打ち出し、幕末浮世絵界の活力源ともなっていました。
江戸っ子の職人気質で気ままな猫を好み、天保の改革などで役者絵・美人画が規制の対象になった時も巧みにすり抜け、逆に作画を増やしたという反骨精神の持ち主だったそう。
國芳と猫との関係を弟子の画帳から見ると…

河鍋暁斎の「暁斎画談」から
國芳は、その人柄もあって弟子を73人抱え、その中の一人、7歳から弟子入りし、のちに「画鬼」と呼ばれる河鍋暁斎(かわなべきょうさい)(1831~1889)が「暁斎画談」で、國芳が猫を懐に入れ弟子たちを教えている図を描いています。周りには猫が数匹のんびりしています。
國芳は大の猫好き、とりわけ白に斑(ぶち)の猫が好み。日本橋玄冶店(げんやだな)に住んでいた頃には、猫を5~6匹飼っていたらしいです。特に1840年あたりから猫を主役とした戯画を多く描いています。
國芳の猫作品を実際に見てみましょう
さすが猫好きの國芳は、普段から絵師としての着眼点で猫のちょっとしたしぐさまでも筆にしています。そうでなければこれほどまでに猫たちのいろいろなポーズを写し取り作品にはできなかったでしょう。驚くほどの観察力とデッサン力です。以下参考までにいくつか見てみましょう。
■猫の当て字シリーズ 「なまず」
猫のしなやかな動きをうまく利用して、ほほえましい当て字の絵にしています。現存する言葉はその他に「かつお」「うなぎ」「たこ」「ふぐ」の合計5文字。
■其まゝ地口 猫飼好五十三疋(みょうかいこうごじゅうさんひき)
歌川広重(うたがわひろしげ)(1797~1858)の風景画ヒットシリーズ「東海道五十三次」を地口(語呂合わせ、今で言うダジャレ)で各宿場名を猫のポーズで表したもの。一つずつ見ていくと猫好きにはうなずける細かな部分まで観察し描いています。ダジャレには今一つのもありますが、猫のポーズに免じてご愛嬌ということで。
今も昔も身近な存在である猫は愛らしいしぐさで心をいやしてくれます。
また、國芳の展覧会では必ずと言っていいほど猫の浮世絵が展示されるほど、「國芳=猫」は定着しています。
浮世絵も猫も、これからもずっと身近な存在として大切にしていきたいですね。最後までお読み頂きありがとうございました。
参考文献:「週刊日本の美をめぐる 第33回配本 江戸15 奇々怪々の幕末 国芳と芳年」小学館、2002年
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