チームラボ「Story of the Forest」シンガポール国立博物館常設展示。 新しい芸術体験を最高のテクノロジーと共に。
今年もあっという間に12月になりました。日本は寒い日々が続いていると思いますが私の住むシンガポールは真夏です。そしてその冬でも真夏のシンガポールにて日本を代表するメディア・アート/デジタル・アート制作集団、チームラボがシンガポール国立博物館ガラスロタンダにて新作の常設展示「Story of the Forest」を発表しました。
12月10日から一般公開になります。
シンガポール国立博物館
シンガポール国立博物館はシンガポール国内においてで最も古い博物館です。美術館は1849年にラッフルズ・インスティテューション(Raffles Institution)の図書館の一部として最初に設置されました。その後数回移転した後、1877年にスタンフォード・ロードの側の現在の場所に移転し今に至ります。
この博物館はシンガポール人にとって特別な博物館です。なぜならこの博物館は「シンガポールの歴史」を展示しているからです。
シンガポールは2015年、建国50周年を迎えた非常に「若い」国ですが、植民地時代の歴史など展示は約700年前からとなります。また、歴史を振り返ると同時に、この博物館では未来に向けてのアプローチも積極的に行われています。その未来にむけてのアプローチの1つとして「Story of the Forest」がお展示されることになりました。
シンガポールに観光に来た人がまず驚く点。それは「緑がとても多い」ことです。シンガポールといえば高層ビルが立ち並ぶ大都会のイメージを抱きがちですが街のあらゆる場所に木立があります。そしてこの「木」はシンガポールの歴史と積極的に関係しているのです。
シンガポールがまだ「シンガプーラ」と呼ばれていた時代、建国の父、トーマス・スタンフォード・ラッフルズ(Sir Thomas Stamford Raffles、1781 - 1826年)より命を受けて実質統治していたウィリアム・ファーカー(William Farquhar、1774年 – 1839年)が当時生息していた動植物を中国絵師に記録として描かせました。この記録は「ファーカー・コレクション」と呼ばれシンガポールの貴重な歴史的な資料となっています。
このファーカー・コレクションはシンガポール国立博物館の歴史館内にも展示されています。そして英国植民地時代、滞在していた英国系の住民たちはこの小さな島に英国式の庭園の建設を試みました。その時の庭園はのちに中国系、マレー系、インド系で財を成した様々な移民たちによって独自にアレンジされていきました。
英国の統治、日本軍の占領、そして終戦を経て、シンガポールが独立の道を歩むようになった時に当時のリーダーであったリー・クワンユー(Lee Kuan Yew、1923年 - 2015年)は「水も資源もないこの小さな国」が生き延びる道を経済と教育に見出しました。そのための企業誘致、学校誘致のためにはより快適な環境ありきと積極的な緑化計画を進めることにしたのです。
現在、シンガポールには約2,500種類の植物が生育し、そのうちの約60パーセント以上が外来種になっています 。この植樹の歴史もシンガポール国立博物館ナショナルギャラリーの展示で学ぶことができます。
つまり、シンガポールの自然と歴史は複雑に結びついているのです。
シンガポールとチームラボ
ここで1つ疑問を感じませんか?シンガポール国立博物館の国家事業的展示なのに、なぜシンガポールのアーティストではなく、チームラボが展示を務めることになったのでしょうか。
実は、シンガポールにおいてチームラボの活動は2012年から始まっているのです。2012年、ニューヨークからシンガポールに拠点をうつした真田一貫氏がオーナーを務めるギャラリー「イッカン・アート・インターナショナル」にてチームラボは展覧会を開催します。その展示が2年に1度開催されている現代アートの芸術展「シンガポール・ビエンナーレ」のディレクターの目に留まり、翌年2013年のビエンナーレに参加しました。その後もシンガポール政府はチームラボとの積極的な交流を続け、その交流はアートサイエンス・ミュージアムの常設展などを通じて広げていきました。
そのような交流もあり、シンガポール国立博物館は各方面で活躍を続けていくチームラボに「教育事業とテクノロジーの融合を芸術にまで高める作品を」と作品制作を依頼したのです。
今回、チームラボはシンガポールの歴史を鑑賞者に体感してもらうためにシンガポールの歴史に不可欠な動植物の記録、「ファーカー・コレクション」を題材に取り入れました。そのためにはシンガポール国立博物館の多大な協力は不可欠だったとのこと。両者の協力によりこの他に例を見ない国の歴史を直感的に体感できるインスタレーション「Story of the Forest」は誕生しました。
記者会見においてチームラボ代表の猪子寿之さんは「博物館の多大な協力に感謝します。シンガポールの美しい自然を残したい」というウィリアム・ファーカーの想いに強く共感し、このインスタレーションを作り上げました」と語りました。
「Story of the Forest」の3つのステージ
会場となる、ガラスロタンダは2年の改修工事を経て12月10日にオープンします。ここはシンガポールの自然、歴史、そして未来を高さ約15mのドームと、その空中にかかる橋と回廊の3つのエリアにて構成されており、入口は博物館の2階になります。
入場するとまず、鑑賞者は空中にかかる橋を渡ります。高さ約15mのドーム空間に掲げられた橋。実際はそれほど長くはありません。しかし空中にかけられた橋の上から時間とともに咲き乱れるシンガポールの花たちを見ていると、この橋は永遠に続くような感覚に陥ります。ドームから溢れ出てくる数々の花たちはこのシンガポールが亜熱帯地域で自然に満ち溢れている国であることを伝えてくれます。
そして橋を渡ると外壁沿いの螺旋状の回廊が現れます。そこにはシンガポールの動植物が生息する広大でインタラクティブな森となっています。ファーカー・コレクションからインスパイアされた動植物が自由に動き、咲き、時間、季節、雨季、乾季をそれぞれ体感することができます。
「デジタル」と「アナログ」のインタラクティブを同時に体験
入場前にぜひ行ってほしいことがあります、それは専用アプリ「Story of the Forest」」のダウンロードです。鑑賞者が回廊にそって歩く際、気になった動物を見つけたらこのアプリがあれば詳細を確かめることができ、写真に撮って「マイコレクション」として持ち帰ることができます。
実際にコレクションを見たい!という場合は博物館内の別の建物にあるファーカー・コレクションのコーナーに行ってみましょう。そこには先ほどデジタルで出会えたコレクションが出迎えてくれるでしょう。博物館の中でデジタルとアナログそれぞれのインララクティブを体験というほかではできない体験を楽しんでみましょう。
この回廊は非常に長いです。様々な場所、時間、そして季節を体感しながら降りていきます。
そして回廊を降りてドーム空間に降りてきました。もし、誰もいない時にこの場にたどり着くことができたら素晴らしくラッキーです。
誰もいないと、そこには静寂しかありません。鑑賞者が壁に近づき立ち止まると、地面が生まれ、木が生え森ができ、動物が出現するのです。緑化政策のように各方面に木が生えていきます。まさに植樹によって完成された「ガーデンシティ」が再現されていきます。木立の下には動物たちがインタラクティブに登場し、動き回ります。登場する動物たちには現在は絶滅してしまった生き物もいるそうです。
作品は鑑賞者の人数、配置などの情報を得てコンピュータプログラムによってリアルタイムで描かれ続けます。都市が常に変化し、時間の経過に誰も逆らうことができないように鑑賞者が見ているこの瞬間の「成長する街」はその瞬間だけのもの。二度と観ることはできません。
チームラボの作品は鑑賞者のアクションがあって初めて生命を抱き成長していきます。それは鑑賞者もこの作品の一部であること、まるで自然においてそれぞれの存在があって初めてその世界が生まれるという宗教的思想が体感できるとも言えます。
メディア内覧会が開催されたの次の日、博物館地階のシアターで行われたThe conference is “The Digital in Cultural Spaces”が開催されました。カンファレンス開会にて文化・コミュニティー・青年省大臣政務官Baey Yam Keng氏は「Story of the Forest」オープンについて言及しました。そして基調講演後に実際に見学しインタラクティブな空間をチームラボ代表の猪子寿之氏、国立博物館アンジェリータ・テオ館長、キュレイターのイマン・イスマイル氏と共に楽しみました。
この「Story of the Forest」はシンガポールの自然、歴史、そして未来を鑑賞者が自ら体験することができます。非常に移動距離の長いインスタレーションで、入り口から出口までの距離は170Mを超えます。
「Story of the forest」は常に変化します。鑑賞者それぞれがそれぞれの思いを抱きながら未来に進むように変わって行きます。
国の歴史を、今を、そして未来をこのような体感的な芸術体験で学ぶことは鑑賞者にたくさんの気づきを与えてくれることでしょう。
そしてぜひこの展示を体感したら同博物館のヒストリーギャラリーや2階のファーカーのコーナーも訪れることを強くオススメします。体感したシンガポールの歴史を改めて確認することにより、もっとシンガポールに近づくことができたと思えるはずです。
英語での展示が分かるかどうか不安、、という方は是非当館平日に行われている日本語ボランティアガイドに参加することもオススメです。
関連リンク
National Museum of Singapore
http://nationalmuseum.sg
TeamLab
http://www.team-lab.com
-
広島上空でピカッ、岡本太郎作品に原発事故付け足したチンポム 卯城竜太。人間の存在自体が自由なもの | 表現の不自由時代 04
2018 年 09 月 04 日 ARTLOGUE 編集部 -
なぜ女性器だけタブーなのか? 権力による規制に、アートの力で笑いながら疑問を投げかけるアーティスト ろくでなし子 | 表現の不自由時代 02
2018 年 08 月 20 日 ARTLOGUE 編集部 -
ルイ・ヴィトンや日清食品からの圧力のみならず、殺害予告、通報にも屈せず表現をつづけるアーティスト 岡本光博 | 表現の不自由時代 01
2018 年 07 月 23 日 ARTLOGUE 編集部 -
〈占い〉おとめ座の時期のポジティヴ・アート:占い師 ルーシー・グリーンの星占い的アート鑑賞のススメ
2018 年 08 月 30 日 ルーシーグリーン -
2018年 【東京】東京国立博物館周辺ランチ・グルメおすすめ7選!:腹が減ってはアートは見れぬ
2018 年 07 月 23 日 はこしろ -
声を大にして言いたい。「アートは育児を救う」。
2016 年 08 月 02 日 Seina Morisako -
世界最大級のアート・フェアなのに、超閉塞的なアート・バーゼルのお話
2018 年 06 月 26 日 黒木杏紀 -
モノが物語る力-ヤノベケンジ展「シネマタイズ」(高松市美術館)
2016 年 08 月 22 日 三木学 -
美術館4コマ漫画『ミュージアムの女』<br>「理想のタイプ」「出陣の合図」第1話~第10話<br>by 岐阜県美術館©︎宇佐江みつこ
2017 年 01 月 18 日 岐阜県美術館 -
芸術の都フランス・パリが日本一色に染まる! 大規模な日本文化・芸術の祭典「ジャポニスム2018:響きあう魂」がまもなく開催。
2018 年 07 月 09 日 黒木杏紀 -
人工生命体「ストランドビースト」の生みの親テオ・ヤンセン氏インタビュー
2017 年 07 月 31 日 羽田沙織 -
名和晃平 金色に輝く巨大彫刻「空位の玉座」がパリ・ルーブル美術館に出現!黄金の玉座空位の意味は? : ジャポニスム2018
2018 年 07 月 28 日 黒木杏紀 -
アートとビジネスの融合イベントが実現。ARTLOGUE Meetup スタート
2018 年 09 月 19 日 ARTLOGUE 編集部 -
アートが身近に感じられる、ちょっと内緒の話
2016 年 07 月 17 日 黒木杏紀 -
賛否両論「先進美術館」構想。美術館の役割とは。そして人口減少時代における生存戦略はいかに。:アートをおしきせ 20180520
2018 年 05 月 20 日 ARTLOGUE 編集部 -
無料で美術鑑賞!?案外あった美術館の無料開放日:アートをおしきせ 20180511
2018 年 05 月 11 日 ARTLOGUE 編集部 -
新たな時代のジャポニスム旋風が巻き起こる、フランス・パリで日本の美を再発見~大規模な祭典「ジャポニスム2018」展覧会リポート!
2018 年 08 月 10 日 黒木杏紀 -
「大大阪モダン建築」とアート&カルチャー
2016 年 07 月 14 日 三木学 -
アートとこころ ~1.こころをアートで表現する!絵を描くことを通じて見えてくるものとは~
2018 年 03 月 17 日 佐藤セイ -
アートとこころ ~2.こころをアートで映し出す!見えない絵を見るこころの動きとは?~
2018 年 03 月 23 日 佐藤セイ
あなたのデスクトップにアートのインスピレーションを
ARTS WALLは、常にアートからの知的な刺激を受けたい方や、最新のアートに接したい方に、ARTLOGUEのコラムや、美術館やギャラリーで今まさに開催中の展覧会から厳選したアート作品を毎日、壁紙として届けます。 壁紙は、アプリ経由で自動で更新。